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タナッセ愛情Bエンドから16年以上後のおはなし。
タナッセとレハトの間に印持ちの双子が生まれ、更にその二人が分化を終え、
王(○○○)と衛士長(□□□)になっています。
SS一作目。

幅が狭くて読みにくい方はPixiv版 をどうぞ。

 舞踏会


とある月の60日。

今日は二人の息子が分化を終えてから初の舞踏会がある。
といっても、舞踏会までまだまだ時間がある。
舞踏会の前に話がしたい人物がいたからだ。
貴賓室で待機していると、唐突にバーンと扉が開いた。

「レハト!久しぶり!元気だった?
あ!そうだ、こないだ中庭を抜けてたときに・・・
あ、タナッセもいたんだ。久しぶり。」

夫妻が此処にいると聞いて飛んできたのだろう。
ヴァイルが息を弾ませて入ってきたかと思えば、
タナッセに構わずレハトに抱きついていた。

「わぁ、ヴァイル!会いたかった!」
「おい、貴様らもう三十過ぎだろう。
いい加減その話し方はよせ!それになんだ、その如何にもおまけみたいな・・・っ!おい!抱き合うなっ!」
「はいはい分かった分かってるって。相変わらずだなーもう!」

ヴァイルは分かったと言いつつ、レハトに抱き付いたままだ。
舞踏会を前にしてタナッセに拗ねられては困る。
レハトがさり気なくヴァイルを引き離しつつ話しかける。

「息子達は忙しいのかしら。舞踏会の前に少し話がしたかったのだけど・・・。」
「んー、無理かな。後なら、まぁできなくもないだろうけど。」
「そう、なら仕方ないね。あ!さっき言ってた中庭の続きを教えて?」

中庭の猫が―・・・
屋敷の裏の花畑で―・・・
すでに裏方となった三人で、他愛もない話をしていた。

気付けばそれなりに時間が経っており、
それに気付いたヴァイルが急に立ち上がる。

「あ、もうこんな時間!俺まだ準備してないんだよね、飛んで出てきちゃったから。
じゃ、また後でね!」

そしてまた、バーンと扉の音を鳴らして出て行く。

「っ!おいっ!・・・まったく!・・・変わらないな。」

なんだかんだ緊張していたタナッセの頬が緩んだのを見て、レハトもホッとする。
最愛の息子達の晴れ舞台なのだ。あのタナッセが緊張しない訳がない。
ヴァイルには感謝しなければ・・・。

「おい、何をニヤついている?悪巧みか?」

ニヤついていたらしい。
タナッセに抱きつき誤魔化しつつ、会場へと向かった。




会場ではまだ少し早いにも関わらず、すでに相当の人数が入っていた。

今回の舞踏会は、言ってしまえば印を持つ双子の分化後お披露目会みたいなものだ。夫妻は蚊帳の外、というわけでもなく、親から取り入ろうとする貴族も多い。
そんな貴族達の相手をしていると、入り口がざわめいているのに気付く。
多く衛士に囲われた中心に、着飾った若い二人の息子がいるのが見えた。

「父上!母上!」

衛士の間をくぐり抜け、□□□が近づいてくる。

「□□□、久しぶりね。」
「あ、えー、元気そうでなにより。」
「あれ?父上、緊張してるの?   
どうせ露台に行くん・・・イテっ!踏むこと無いだろ!」

□□□の足を踏みつけていた。
が、周りの目を気にしてすぐに離した。

「おまっ、おまえがっ!・・・っ!今日は露台に行くつもりはない!
ふっ、私も立場があるのでな。」
「まぁ!じゃぁ今日は一緒に踊ってくださるのね?」

二人の会話に目を輝かせて入ってきたのは、もちろんレハトだ。

「なっ・・・!わ、私は踊らな」
「今夜の舞踏会は楽しくなりそう!
□□□。皆に顔を見せていらっしゃい。」

そう言って、□□□の少し乱れた衣装を整え、送り出す。
その横で慌てたようにタナッセがもごもご言っていったが、
レハトがとても嬉しそうにしているのを見て諦めたようだ。


そして七代目陛下の挨拶と共に舞踏会は始まった。


しばらく夫婦揃って歓談をしていると、音楽が鳴りはじめた。

それを見計らってレハトの元へ多数の手が差し伸べられる。
レハトは相も変わらず美しいのだ。
今会場にいる女性の中では圧倒的な美しさだろう。
隣に夫がいるのにも関わらず差し伸べられる手に、
タナッセは少し苛立ちを感じていたが、同時に誇らしさも感じていただろう。

それを知ってか知らずかレハトが丁重に断っていると、
後方で二人の息子が並んでこちらに向かっているのが見えた。

「私ってば人気もの!まだまだ負けてないね。」
「・・・・。」

ふと横を見るとタナッセがレハトを睨み付けていた。
舞踏会が終われば間違いなく説教だろう。

そして、レハトの目の前へとたどり着いた息子達が一歩足を引き、
レハトに手を差し伸べる。


「「お母様、私と一曲いかがですか?」」


「まぁ!・・・喜んでお受けいたします。陛下。」

と、レハトは王となった○○○の手を取った。

「ちぇっ、俺が後かぁ。」
「当たり前だ。」

タナッセが腕を組み呆れている。

「□□□はお父様とお話しでもして待っててね。さ、行きましょ、陛下!」
「父上、またあとで!」


そう言って二人は会場中央へと歩いていった。


二人を見送った後、タナッセと□□□は、
中央の二人が見え且つ人の少ない方へ移動した。

「舞踏会はあまり好きじゃない。若い頃はいつも顔だけ見せて露台へ逃げていた。」

□□□は目を丸くした。なぜ急にそんな話を始めたのか。

「おまえは苦しくないか。」

無理はしていないかと、タナッセは真剣な表情で訊ねた。
それを見た□□□は少し頬を緩めた。
タナッセは自らと自分を重ねて見ていたのだろう。
こんな場でしか素直になれない、しかし真面目なタナッセに対し、
いつもならふざけて返す□□□も真面目に答えようと少し気張って答えた。

「全然?むしろ楽しいよ!
・・・そう思える場を作ってくれたのは他でもない貴方と母上だ、父上。
僕達は、もう異例ではないんだから。 ・・・くはっ!」

□□□は、自分のキャラでない発言に、耐え切れず笑いがこぼれる。
ハッとして直ぐに笑みを隠すが、
タナッセも微笑んでいることに気付き、再び頬を緩めた。



「○○○は踊れないのかと思っていたのだけれど。」

レハトは踊りながら、○○○に話しかけた。

「どうして?これでも僕は皆に認められた国の王だよ。踊りくらいできるさ。」
「だって今まで歓談ばっかりだったじゃない?誘っても丁重にお断りされ」
「そっそれは!・・・その・・・膝に矢を・・・」
「・・・っへ?」
「な、なんでもない!!」

○○○が動揺してつまづく。
慌ててレハトがフォローして何とか持ち直した。

「ご、ごめんなさい、母上。」
「あはは、いいのよ! 陛下には借りを作っておかないとね?」
「ははは・・・。」


そうして無事に一曲を終え、二人はタナッセ達のところへ戻る。


「お疲れ様、母上、○○○。綺麗だったよ!」
「ほ、ほんと?」
「ああ、良かったぞ。」

○○○はホッとしたように息をつく。
躓いたことには気付かれなかったようだ。

「じゃぁ次、俺! あらためて・・・一曲踊っていただけますか?」
「ええ、喜んで!」

□□□が差し出した手に、レハトが手を添える。

「でも母様ばっかり楽しんでいいのかしら。タナッセとは踊らないの?」

タナッセは唐突に振られて咳き込む。

「ばっ・・・!わ、私は踊らないぞ!
おまえが踊っている間、楽しく歓談させてもらうのでな。」
「え?でも□□□の次、私と踊るのよね?」
「い、いや、踊ら」
「え・・・踊らないの・・・?」

タナッセの拒絶に、レハトがしゅんとする。
よほど楽しみだったのだろう、今にも泣きそうだ。
息子達の痛々しい視線がタナッセに向けられる。これは踊らざるをえない。

「ああもう!踊る!踊るとも!ほら、次の曲が始まったぞ。行ってこい!」


そう言うとレハトは花が咲いたような笑みをタナッセに向け、
□□□と共に中央へ向かった。


タナッセは顔を歪めながら後悔の念に駆られている。
その姿を○○○がニヤニヤしながら見つめているのにタナッセが気付いた。

「おい・・・何をニヤけている。悪巧みか?いや、馬鹿にしているのだろう。
本当、おまえはレハトにそっくりだな。その何もかも見透かしたような」
「いや、父上が分かりやすいんですよ・・・。母上でなくたって分かりますって。」

呆れたように腕を組んだ○○○が答える。
その姿は先ほどのタナッセにそっくりだ。タナッセが口を開く前に○○○が続ける。

「父上と母上を見てると結婚したくなります。いや、恋を、かな・・・。」
「はっ・・・!?ぐ、ま、まぁ・・・悪くはないぞ。
私が変われたのはレハトのおかげだ。
あやつでなければ私は己の弱さを・・・いや、なんでもない。」
「・・・父上?」

怒鳴られるかと思いきや、やけに素直なタナッセに○○○は戸惑う。



「衛士長ってことは、それなりに鍛えているのよね?」
「え?まぁ、うん?」

□□□は質問の意図が分からないまま、とりあえず頷いた。
レハトの顔を窺ってみると、なにかニヤニヤしていることに気付いた。

「は、母上?なに?どうかしたの?」
「いいえ?・・・なに、もっ!!」

と、いきなりレハトが予想外の方向へ足を踏み出す。
□□□は予想外に驚き、躓きそうになりながらも付いていく。

「ちょ!?母上!転ばせるつもりですか!」
「わーすごいすごーい!流石私の息子ね。息ぴったりじゃない!」

そう言って、次から次へとアレンジを加えていくレハト。
それに必死で付いていく□□□。

「息ぴったりって!・・・っ!あぶっ!ちょっと母上!?」
「あはは!楽しいっどんどん行こー!」


一方その頃、タナッセと○○○も二人の変化に気付いていた。


「あ、あれ?母上と□□□、なんか・・・ずれてる?」
「あー・・・やはりか。」

タナッセが額に手を当て呆れている。

「父上?何がです?」
「おまえ覚えてないか?何年か前にどうしてもとせがまれて、
レハトと踊ったことがあるんだ。」
「あ、そういえば・・・ちょうど5年くらい前、御前試合も見に来たときに。」
「ああ、そうだ。久々の御前試合に血が騒いだのだろう・・・。」

血が騒いだって・・・母上は戦闘凶か何かなのか、
○○○は突っ込みたくなる衝動を抑え、タナッセの続きを待った。

「あいつ、アレンジだ!と言い張り出鱈目にステップを踏み出したんだ!
あんなものアレンジであるものか!
覚えたての未分化の子でさえまだマシなステップ踏むぞ!」
「は、母上・・・。」

よほどその時の事が気に食わなかったのだろう、
耳まで真っ赤にしてタナッセは怒っていた。
そう、曲がすでに終わっていることに気付かないほどに。

「あ、母上、□□□、お疲れ様。」

○○○の一言で、すでに曲が終わっていることに気付く。
そして次の番、あらため次の餌食は・・・タナッセだ。
先ほどまで踊っていた□□□は、もう懲り懲りといわんばかりの顔をしている。

「あ、ああ、お疲れ。綺麗だったぞ、うん。」
「えへへ、ありがとう。タナッセ。
次は久々にタナッセと踊れるのね、わあ、楽しみ!」

その言葉にタナッセの血の気が引いていくのが分かる。

「い、いや、その、疲れただろう。少し休憩しないか?
○○○もレハトと話がしたいだろう。」
「僕はもう戻らなければ。王としての立場があるので。
それでは、母上、父上、また明日時間があれば。□□□も、また後でね。」
「なっ・・・ま、まぁ、そうだな。」
「まぁ。陛下。今日は楽しかったです、また踊ってくださいね。」
「あ、う、うん。また今度、母上。」
「俺も向こうで休憩してくるよ、またね、母上、父上。」

そう言って息子達は二人から逃げるように去っていった。


次の曲が流れ始め、引きずられるように連れて行かれるタナッセ。
その数分後、レハトの不意打ちステップで大転倒したのは言うまでもない。


---end---

 あとがき

SS、記念すべき第一作目でした。
一作目からタナッセとレハトの間に双子が生まれていて、その双子も既に成人しているという、ぶっ飛んだ設定でしたが、書いててとても楽しかったです。((
そのうち双子が生まれるまでの過程とか第三子とか書きたい。
広告の裏とかに・・・。

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